高齢の家族が倒れると、否応なしに「介護」の世界が始まります。いざそうなったとき、高齢者と家族との間で意思の疎通がないと困ることになります。介護は、介護される高齢者が望む生き方を尊重することから始まるからです。介護方針を家族の都合だけで決めてしまうと高齢者に不満が残ることになります。理想を言えば介護者が元気なうちに本人の希望を聞いておくことが大切です。在宅か施設か、一人暮らしか同居か、同居なら誰と暮らしたいかなどのことを本人が元気なうちに聞いておけば対処しやすくなります。
また、子供同士連絡を取り合ってそれぞれがどういう役割をするか、また経済的な負担はどうするかなどを決めておくといざというときに慌てないですみます。
家族だけでなく、本人にも心構えをしておいてもらうことも大切です。面と向かって言いにくければ、デイサービスを一緒に見学に行くというやり方もあります。デイサービスとは、特別養老老人ホームや老人デイサービスなどの施設に通って、入浴や食事などの介護を受けるサービスです。いずれお世話になる施設なのだからと今のうちに見学する気分でと誘ってみるといいでしょう。元気なうちにいくつか行っておけば、本人も自分の好みが分かってくるのではないでしょうか。カラオケが好きだという人もいれば、じっくり絵を書いたりするのが好きという人もいるでしょう。
泊まりで預かってくれるショートステイの見学も役に立ちます。気に入りそうな施設に体験ショートステイを申し込んでみるといいでしょう。元気なうちから少しずつ外泊に慣れてもらうようにしておけば、急に行くことになって問題を起こすようなことがなくなります。
高齢者の本当の気持ちを理解する
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加齢によるさまざまな機能の低下は高齢者の心身に大きな影響をを及ぼします。自分が望んだわけではないのに心ならずも他人の手を借りているのですから心の中は複雑です。どうして自分がこんな目に遭うのかという怒り、これから自由な生活を楽しもうと思っていたのにという失望、世話をしてもらって申し訳ないという心の負担などが心の中で渦を巻きます。健康な人がうらやましくて嫉妬したり、時には妄想を抱くこともあります。
ですから介護者は高齢者の心理を理解し、心理的に負担を与えないようなさりげない介護をすることが必要となります。高齢者の心の安定がなければ、いい介護はありえません。
年を取ると頑固になるよく言われます。しかし元々頑固な性格だっただけなのかも知れません。仕事上自分を抑えてきたのがもう我慢する必要がなくなり、それで頑固が目立ってきたのではないでしょうか。逆に性格が穏やかで丸くなったというのは、人間ができたわけではなく、単に体力や気力が無くなってきただけかも知れません。
60歳から96歳までの高齢者を対象に行われた調査によると、やる気や意欲は年齢とともに低下しますが、自分をコントロールしていく能力(人格)は年齢による変化が見られないという結果が出ています。感受性・繊細さは少しずつ衰えますが、それは困難に遭っても動揺せず、冷静に受け止められるということでもあります。加齢は決して人格を変えるものではありません。
ただ気をつけなければいけないことは、穏やかだった人が急にわがままで頑固になったり、明るくて活動的だった人が、人に会うのを避けて部屋にこもるようになったら、認知症やうつ病の可能性があります。いつもと違う、おかしいと思ったらなるべく早く専門医に診てもらうようにしましょう。
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